命の価値を考える、愛され和牛プロジェクト
えんどう畜産/遠藤恭子さん
和牛の仔牛は市場でわずかな傷や奇形があるだけで価値が大きく下がり、時には殺処分される現実があります。そんな命の扱いに疑問を抱いた獣医師・遠藤恭子さんは、市場に出せない牛を自家肥育し、その成長を記録しました。「食とは命をいただくこと」と恭子さん。牛と向き合うことで、命の重みと感謝の心を伝えています。
和牛の命と向き合う、獣医師の決意
経済動物である牛の世界はシビアそのもの。特に和牛の素牛(肥育前の仔牛)を市場に出す時、傷や奇形があったり体が小さかったりすると、肉質や安全性に問題がなくても二束三文にしかならない。最悪の場合は赤字になるからと殺処分することもあるそう。「利益が出ないからと人間都合で命を粗末に扱っていいものか」と疑念を抱き、立ち上がったのがえんどう畜産の獣医師である遠藤恭子さんです。
恭子さんは左肩にコブができてしまい競りに出すことができなかった1頭の和牛を自家肥育することに決め、その様子をつぶさに記録し始めました。蓮秋21と名付けられた牛のケアはスタッフ総出で行い、ある時は地元の小学生たちの授業に登場し、命の尊さと命をいただくことについて考える機会の講師になったこともありました。蓮秋が生きた約3年間の軌跡は恭子さんの手によって動画にまとめられ、蓮秋の肉を購入した人の元に届けられました。これが愛され和牛のプロジェクト。生きている姿を知った上で肉を食べてもらうというのが恭子さんの考えです。
「どんな風に生きたかを知ることで、食べた時に悲しいだけじゃなく、蓮秋のエネルギーも取り込んでいるような気持ちになって自然とありがとうと思うんです」。食べることの本質は、他者の命をいただくこと。生命が持つあふれんばかりのエネルギーを身体に取り込むその尊さとありがたさを、恭子さんと牛たちは教えてくれています。
えんどう畜産
-
河東郡士幌町字士幌幹西2線169-17
https://www.endo-chikusan.com/
1 黒毛和牛のほか、F1(黒毛和牛と乳用種の交雑牛)も育成しています。
2 農場主の遠藤良平さんと、妻で獣医師の恭子さん。
3 愛され和牛の肉はネット通販のほか、道の駅ピア21しほろでも購入することができます。
4 十勝の中央部、士幌町にあるえんどう畜産は繁殖から育成、一部肥育も手がける一貫生産農家。