牛はパートナーであり、家族
菊地ファーム/菊地亜希さん
広尾町の菊地ファーム。菊地亜希さんが夫の亮太さんと共に広尾町に新規就農して15年以上経ちました。「牛は経済動物ではあるけれど、パートナーであり、家族です」と話す2人は、ずっと理想とする酪農の在り方を模索し続けてきました。牛たちの一生。彼らから分けていただいている命。それらを消費者に伝えるには、「この場所で食べる」ことが必要ではないか。そう思い至ったことで、直営カフェの構想から加工品の販売へとつながっていったのです。
うま味たっぷり、希少なブラウンスイス牛の肉
菊地ファームでは、ホルスタインだけでなく、ブラウンスイス牛の肉製品を生産しています。肉牛としてはあまり一般的ではないブラウンスイス。ですが、ある時菊地ファームで生まれたブラウンスイスの雄牛を肥育して食べてみたところ、「うま味がすごくておいしい!」という発見があったそう。
ピースケと名づけて可愛がっていた牛が、新たな道を示してくれたのです。ホルスタインに比べて価値が認められにくいブラウンスイスの肉を、「価値あるものとして、命を大切にいただくことを発信したい」と、菊地さんは考えています。
菊地夫妻は共に千葉県出身で、帯広畜産大学の卒業生。新規就農にあたっては、放牧ができる土地があることが絶対条件でした。さらに、牛が自由に歩き回れて眠ることもできる、フリーバーン牛舎での飼育。「自分が消費者の立場だった頃、あたりまえに、そんなふうに飼育されていると思っていたから」。
自分たちが口にしたいと思えるものを生産したい、そこに妥協はしたくない。若者たちの夢を真剣に受け止め相談に乗ってくれる人たちの存在があったことなど、良いタイミングが重なって、広尾町への新規就農の話はトントン拍子に進んだそうです。
とはいえ、そこからが本当のスタート。「土づくりも放牧のやり方も、毎年少しずつ変えています。牛たちが先生ですね」。
加工品を手がけることは、当初からの計画にあったこと。就農から5年ほどが経ち、少しずつ地域のことに目を向けられるようになった2人。特に、教育ファームや本州の修学旅行生の受け入れなどを行うようになった頃から、「伝えたい」という思いが強くなっていきました。
まず着目したのは、搾りたて生乳で仕込む保存料不使用の乳製品。そして、搾乳を終えた牛は「大切に食べたいから」と、ステーキやハンバーグなどの加工品にするようになりました。2018年にはいよいよカフェをオープン。これらをメニューとして提供したり、酪農を広く知ってもらうためのイベントを主催したりしています。
菊地ファーム
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広尾郡広尾町野塚11線8番地4
01558-2-0008
https://kikuchifarm.jp/
1 牛たちには一頭一頭名前が付けられている。
2 ブラウンスイスの肉は、脂身が少なくあっさりしているのが特徴。いわゆる「牛くささ」をほとんど感じず、食べやすい印象。
3 直営のカフェを営む、亜希さん(左)。
4 直営のカフェ。店内からは放牧地や日高山脈を一望することができ、ソフトクリームやジェラート、ハンバーガーなどを味わえる。