余さず利用し、最後まで見届ける
石田めん羊牧場/石田直久さん、美希さん
「生産者としての誇り、羊にかける想いは誰にも負けない」。気負うでもなく、当たり前のように語る石田夫妻の静かな情熱。
使えるものは全て利用する
足寄町の国道沿いにある石田めん羊牧場。
15ヘクタールの放牧地で、約600頭の羊を飼育し、遠くは名古屋、箱根、東京のレストランなどへ年間200頭以上を出荷、販売しています。
その商品レパートリーの多さに驚くことなかれ。枝肉(内臓、頭、尾、四肢の先端を除いた骨付きの肉)はもちろん、第一胃から第四胃(ホルモン)、腎臓(キドニー)、舌(タン)、横隔膜(サガリ)、心臓(ハツ)、肝臓(レバー)、気管支、アキレス腱、脳みそ…。羊の国内自給率わずか1〜2%と言われる中、これ程までの品目を扱う生産者は全国でもさらに数少ないそうです。屠場から引き取ってきた内臓を下処理し、パックに詰めて発送するのですが、これまた手間がかかります。しかし、大切に育てた羊を、たとえ手間がかかったとしても「捨てる」などという考えは石田さん夫妻には最初からありません。使えるものは全て使う、食べられるものは全部食べてもらう。2人にとって、それは当然のことなのです。
そんな貴重な部位を扱っているわけですから、全国各地のレストランなどから注文が入ります。中には直接牧場まで視察に来る熱心な人も。日本において、羊は牛や豚などの主たる家畜とは異なり、国からの補助金が出ないため、大規模な牧場経営はほぼ無理。しかし「だからこそできることが沢山ある」と直久さん。大規模経営の場合、出荷先や消費者との間にはどうしても中間業者が介入せざるを得ないので、どんな人が自分の大切に育てた農畜産物を食べているのか、生産者にはほとんど分からないのが普通です。その点、石田さんのような小規模経営の羊飼いたちは互いの信頼関係の下、出荷先や消費者と直接のつながりを持てるため、例えば出荷先のレストランのシェフとより美味しい羊肉を作るにはどうすれば良いかと意見を交わすことも可能に。
「それが最も面白い」と話す直久さん。だから、言うまでもなく、羊を出荷する先は本当に羊を大切に扱ってくれるところだけ。そこだけは譲れない一線なのです。
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1 石田めん羊牧場。
2 枝肉。この日は7頭を屠畜しました。
3 右奥から時計回りに、タン、サガリ、ハツ。
4 石田直久さん・美希さん 帯広畜産大学大学院修了後、同大学研究室出身の美希さんと結婚。石田めん羊牧場を設立。肉用種のサウスダウンを中心に約600頭を飼育しています。