十勝農業ストーリー

十勝の小麦畑と食卓、 そして人を繋ぐ

前田農産食品 合資会社/前田茂雄さん

法人化した前田農産で社長を務める前田茂雄さん。
耕している畑は、前田さんの曾祖父が明治32年に切り拓いた大地です。
小麦農家として小麦栽培に打ち込みながら、一方では収穫した小麦を製粉し、 その小麦粉を多くの人たちに使ってもらおうと日々奮闘中。
最近では、地域の人やパン屋さんと共に畑でパン教室を開くなど、 小麦農家の枠にとどまらない活動を行っています。



畑で作った小麦がパンになった日

前田農産は、昭和40年代半ばからこれまでに10品種以上の小麦を栽培してきました。試行錯誤を繰り返しながら、現在ではうどん、お菓子用品種の「きたほなみ」、パンやパスタ用の「キタノカオリ」、「ゆめちから」、「春よ恋」、「はるきらり」の5品種を栽培しています。多くの品種を栽培していると、単品で栽培するより大変なことは増えるけれど、それを苦に感じることはあまりないと前田さんは笑います。その理由は至極明快なものでした。「新しい品種を小麦の研究員さんが開発して、それを農家が栽培する。いろんな小麦の良さを知ってもらいたいから、うちではたくさんの種類を作るんです」。

パン用小麦「春よ恋」を作った平成16年、大きな衝撃を受ける出来事がありました。帯広市では誰もが知る「ますやパン」の杉山雅則社長が、「春よ恋」を使ってパンを焼いてきてくれました。そのパンが、想像をはるかに超えて美味しかったのです。「春よ恋」の特性がパン用と言われるだけあることを、前田さんはその時初めて実感します。

しかし、パン用として需要があると確信した「春よ恋」でしたが、赤カビ病などの病気に弱く、生産がなかなか安定しないというリスクがありました。そこで、なんとか安定生産に向けていい方法がないかと日々模索していたところに登場したのが、春蒔き小麦の「はるきらり」、秋蒔き小麦の「キタノカオリ」でした。

「キタノカオリ」は、香りが芳醇で、もっちりしたパンが焼けるのでとても人気のある品種ですが、生産が安定しないのが悩みの種。収穫期のたった一日の雨で、生地が繋がらなくなる、でんぷん質が荒くなるという特性がありました。こればかりは農家にはどうすることもできません。

雨の多かった平成21年、「キタノカオリ」の収穫期に雨が降りました。「以前なら、雨が降ってしまったのは仕方がない、明日雨が上がったら早々に収穫しようと、その日は諦めていたと思う。でも、パン屋さんの顔を思い浮かべると、そういうわけにはいかないと思ったんだよね」。前田さんは雨が降りしきる中、下着が濡れてべちゃべちゃになっても、収穫を続けたそうです。

何年にも渡って続けられたパン用小麦栽培の模索。そんな中、「キタノカオリ」に代わって開発され、登場したのが超強力小麦の「ゆめちから」です。この品種は、これまで栽培してきた小麦に比べ病気への抵抗性があり、生産性が高く、品質に安定性があるということでした。また「きたほなみ」などとブレンドすると、パン用としても麺用としても使えるというオールマイティさも備え、注目を集めます。ただ、この「ゆめちから」はまだ栽培の前例がありませんでした。そこで平成22年、前田さんが「ぜひ、ゆめちからをうちで作らせてください!」と手を挙げたのです。

  • 1 小麦畑。
    2 小麦を脱穀する巨大な機械類は、前田さんとスタッフが独自に設計して組み立てたもの。自分たちの手で作ることで仕組みがよくわかって使いやすいのだそう。
    3 奥様の晶子さんは、前田農産の小麦でパンを焼きます。その年の小麦の品質がわかる、大切な仕事。(写真提供:前田農産)
    4 前田さんの夢は、小麦の栽培にとどまらず、全世界に発信できるイベントを開催して、地元本別町を楽しい町にすること!
    5 前田茂雄さん。十勝・本別町で約100年続く小麦農家。専務取締役社長を務める。「パンやお菓子の焼ける香りから小麦畑の風景が思い浮かび、笑顔になるような小麦作り」を続けています。

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