十勝農業ストーリー

十勝の小麦畑と食卓、 そして人を繋ぐ

前田農産食品 合資会社/前田茂雄さん

消費者目線で作るのが、本来あるべき姿

「親がいて子どもがいるように、小麦も研究所が新しい品種を開発してくれることで、ぼくら農家は小麦の生産ができる。十勝は生産者もいるし、優秀な育種の機関も、製粉所もある。北海道でも、これだけ素晴らしい環境が整っている地域は限られているでしょうね」。

パン用小麦として開発された「ゆめちから」は、まさに満を持しての登場でしたが、ひとつだけ弱みがありました。生産は安定していますが、見た目がごつごつして形が美しくないそうなのです。というのも、小麦には一等麦、二等麦という等級があり、品質の良い生産物として出荷するには小麦の形状などをチェックする等級検査を受けなければなりません。「ゆめちから」はその検査に通りにくい形状をしているのです。
実際には、麺用にもパン用にも問題なく使える品質の小麦を作っているのに、形状の善し悪しで検査に通らないという現実問題もあります。このことで地域特性のある品種を生産することができていない現状にも問題があると考え、小麦のフォーラムなどに積極的に参加し、考えを伝えてゆく活動も行っています。開発者や前田さんたち生産者には、どの品種が消費者ニーズに合うのか常に探して行くことこそが求められ、消費者と繋がっていることが本来あるべき姿なのだと熱っぽく語る前田さんがいます。

パン用小麦を栽培するようになって暫くすると、パン屋から「小麦を作っているのに、小麦粉はないの?」と言われることが多くなりました。そこで前田さんは、小麦の栽培と併行して、製粉して小麦粉を作ることに挑戦し始めます。手はじめとして実行したのは江別製粉の小ロット製粉システムを使って製粉し、前田さんの妻である晶子さんにパンを作ってもらうことでした。

その後、「うちの小麦粉で、素人でもパンが作れるのだからプロならもっと美味しいパンができるだろう」と、横浜のパン屋さんに飛び込みで小麦粉の営業を開始。すると予想通り、美味しいパンが出来上がってきました。大きいロットでパンを作る場合は小麦の生産量や品質の安定性が不可欠ですが、小さいロットで作る場合は、定められているたんぱく値の基準に対し、若干の上下があっても問題ないことがわかりました。

意気揚々と新しい世界に乗り込んだ前田さんでしたが、小麦を製粉しパン屋さんと取引きすることは、お店に小麦粉を届けることから事務仕事まで初めてのことばかりで、全てが手探りの毎日だったと言います。

自分たちの畑で作った小麦が製粉され、職人の手でパンが焼かれてゆくのを身近に感じる中で、前田さんは「パン職人たちは、小麦粉を毎日のようにこねて触っているけれど、小麦畑に来て小麦そのものに触ったことのある人は少ないのではないか。彼らを、麦穂が揺れる小麦畑に連れて来よう。きっと感動するはず」と考えるようになります。持ち前のフットワークの軽さを活かし、次のステップに進むのに、長い時間はかかりませんでした。

  • 6 収穫前の小麦の出来を見る前田さん。
    7 収穫したビートを山のように積み上げ、シートをかけて貯蔵します。こうすることで、ビートがより一層甘みを増します。
    8 越冬前の秋蒔き小麦「ゆめちから」の芽。これから冬にかけて成長を一時的に止め、寒い冬を越えます。

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