土に向き合うことで中藪さんが手にしたもの
有限会社 中藪農園/中藪俊彦さん
いつしか、中藪さんは種子馬鈴しょ農家をやめていました。自分の裁量で畑作農業に取り組もうとする気構えが農家としての自立への道を後押ししてくれたのです。しかし、「馬鈴しょを作るのをやめるつもりはなかった」という中藪さんは、考えた結果、新しい品種の馬鈴しょ作りに挑戦し始めます。
土に含まれるミネラル分の状態がそのまま味に直結している作物が馬鈴しょとかぼちゃなのだと中藪さんは言います。美味しい馬鈴しょやかぼちゃが育つなら、土が健康を取り戻している証拠。馬鈴しょの原採種農家をやめ、独自の道を歩み始めた中藪さんは、土壌診断を受けながら新品種の馬鈴しょやかぼちゃなどを作り続けます。牛の堆肥を土に入れることで、土にミネラル分が入っていきます。しかし、堆肥の量が多くなると、今度はカリ分が多くなり過ぎます。すると、今度は土に入れる堆肥の量を減らしていく。1年1年、試行錯誤を重ねて土づくりをしてきた結果、今では作物が使っただけの栄養分を足してやればいいところまで、中藪さんの畑は健康を取り戻すことができました。黒い色をした中藪さんの畑の土。減農薬による健康な土で育った中藪さんの馬鈴しょやかぼちゃの美味しさは、大豆や小豆などと共に年々、評判を呼んでいくことになります。
中藪さんの先祖は明治末期、北海道の北端に近い天塩中川の地に入植。現在の上清川に移ってきたのは大正6年のことです。
戦前までに46ヘクタールまで開拓し、土地を広げてきたと言いますが、旧陸軍による土地の接収や農地解放などもあり、4代目に当たる中藪さんが家を継いだときには、17・5ヘクタールにまで減っていました。若くして父親を亡くし、19歳で跡を継いだ中藪さんはそこから再び土地を広げていきます。現在、45ヘクタールの畑を耕している中藪さんですが、そんなご先祖さまたちのことを「昔、この辺一帯のおじいさんたちには高い志があった。そんなおじいさんたちが今の農業の土台を築いてくれた」のだと、自らにつながるこの地域での畑作農業の歴史を振り返ります。中藪さんの土へのこだわり、美味しい作物を育てることへの情熱、使命感に確固たる強さが伴っているのは、地域のご先祖さまたちに対するこんな感謝の思いがあってこそなのでしょう。
-
5 ジャガイモの花が咲き乱れる初夏の畑の華やかさが去ると、畑は実りの季節に向けて一気にその色合いを変えていきます。中札内の初夏のジャガイモ畑の様子です。
6,7 収穫された中藪農園の馬鈴しょ。写真6はでんぷん質が多くて煮崩れしにくい品種、「十勝こがね」。芽が浅く調理しやすい特徴が。写真7は芽の部分がほんのり赤みを帯びている「はるか」。洋風の料理に向いています。